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約4年間の修業時代

辻村浜夫 スペシャルインタビュー

02 約4年間の修業時代

—–修業をされていたということですが、どのような修業ですか?

昔の師弟制度というもので、弟子入りをして4年ほど住み込みで修業をさせていただきました。

こういう技能職は師弟制度が一番良いと思っています。今は講習会や訓練校などいろいろありますが、住み込みの修業と比べると学習の密度が全く違いますので。

辻村浜夫弟子入りをすると24時間ずっと勉強できる状態でしたので、修業の4年間はぐんぐん成長しているのが実感できました。

本人の強い意志や目標、自分の先生と波長が合うか合わないかで成長に多少影響はあると思いますが、教える側と教わる側のコミュニケーションや、感性のやりとりのようなものがうまくかみ合うと、短期間に非常に大きな成果が得られるような気がします。

先生のアドバイスに対して自分がしっかり感じ取れる、受け止められる素養や、ベースにあるものが一致するというような、私はその部分が比較的うまくいったので、すごく運が良かったと思います。

—–この先生が良い!と思って弟子入りをお願いしたのですか?

先生との出会いは、本当に運が良かったのと、父の陰徳だと思います。

最初は、父の知人の紹介で東京の先生のところに行くつもりでいましたが、ご高齢ということもあって弟子は取らないということで断られてしまいました。

2人目は東京の先生の紹介で、虎ノ門の先生のところで預かってもらえないかとお願いをしましたが、僕より先に2人の若いお弟子さんが決まっていましたので断られてしまいました。

3人目は虎ノ門の先生の後輩にあたる人を紹介していただきましたが、そこも既にお弟子さんが決まっていましたので断られてしまいました。断られ続け て困っていたところ、「4年くらいブランクがあって今はお弟子さんはいないようで、宮内庁のお仕事をしている先生がいるんだけど、声をかけてみるよ」と 言ってくださって、そこに預かってもらえることになったのですが、実はその方が、僕の先生なのです。

それまでに何軒も断られて、最後に行ったところが宮内庁のお仕事をされている先生でしたので、本当に運の良い出会いでした。

—–断られてもあきらめなくて本当に良かったですね!親元を離れて住み込みで弟子入り修業というのは、すごく大変そうですが。。

最初の1年目は何をしていいかがわかりませんでした。「早く上手くなりたい!」という気持ちはありましたが、どうすれば上手になるかが最初はわかりませんでした。気付いた後はグングン成長できましたので、本当に良かったです。

修業は、最初は刃物を作るところから始まりました。

彫刻刀柘 (つげ)という、とても硬い木がありまして、その丸太に字を書いて彫るという作業をしました。すごく硬い木ですので、柘がちゃんと彫れるようになる頃には 正しく刃物が研げているということになりますので、硬い象牙や水牛なども楽に彫れるようになっていました。最初の3ヶ月くらいは、彫っている時間よりも刃 物を研いでいる時間の方が全然長かったです。

一般のお店のお仕事ができるようになってきますと、次は仕上げの修業をしました。

刃物の切れ味については毎日頑張って練習していましたが、字を書くことはしていませんでしたので、頭の中にきちっとした最終的な字の形が身について おらず、先生が書いた字を、私が粗彫りして仕上げをする際に、先生が書いたせっかくの美しい字を、そのとおりに仕上げることができなくて壊してしまうこと もありました。

—–美しい字というと書道も習われるのですか?

書道を習っていたのは中学までですが、彫る作業の前には字を書く作業をしますので、毎日のその作業が字の練習になりました。

字を書く修業は、まず自分の字の癖を知ることから始まります。僕は、自分の字の癖がわかるようになるまでに数ヶ月かりました。癖は誰にでもありますから、その癖を知って、補正しながら書いていくということを毎日しました。

辻村浜夫あとは目の訓練です。先生の美しい字を毎日見ていますし、本を見て書体の勉強もしました。見る力が相当養われていないと仕上げの作業はできません。

字画のバランスがとれた名前の人というのは、実際はあまりいませんので、画数の多い字と少ない字が並んでもバランス良く美しく見えるように、太さや 大きさを調整するのですが、これが本当に難しい作業です。機械彫りの場合は、漢字をただ並べるだけですのでバランスは良くありません。

この部分も手彫りと違うところで、手彫りの良さだと思います。

—–鏡文字で字の練習をするのですか?

いいえ。通常はんこは、文字を逆に直接書く場合と、書体によっては雁皮(がんび)に書いて転写する場合があります。雁皮というのは薄い和紙のような 紙のことで、雁皮に墨で文字を書いて印材に押しつけると、鏡文字になって印面に写るという方法です。修正する場合は、鏡を見ながら作業をしますので、鏡文 字ではなく通常の文字を見ながらの作業になります。

昔はゴム印も手彫りで作っていました。筆で雁皮に住所や電話番号などの会社情報を書いて、ゴム印に写して彫っていくのですが、ゴムは軟らかくて伸び 縮みする素材ですので、彫るのがとても難しいです。力を入れて彫ると、ゴムが伸びたり縮んだりして文字が歪んでしまいますので、力を入れなくても彫れる切 れ味の良い刃物を作ることがとても重要になります。

—–印材の特性を知ること、刃物を研ぐ技術、美しい文字を書くために目を鍛えること、彫る技術・・・はんこ作りって本当に奥が深いですね。。機械では真似ができないわけです。労働大臣賞を受賞されたということですが、次はそのお話を聞かせていただけますか。

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