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全国印章技術大競技会 労働大臣賞受賞 辻村浜夫

 

機械彫りでは表現できない細部へのこだわり

-----最近は、”激安”や”即日発送”を売りにしているはんこ屋さんが多いようですが、手彫りの良さはどういう部分ですか?

手彫りと機械の違いはたくさんあります。細い部分の彫刻は機械ではできませんし、文字全体のバランスを取るということも機械はしません。臨機応変な作業や丁寧な作業が、手彫りの良さだと思います。

書体に関しては、文字を描く人の技量や感性が大きく関係しますので、その部分が手彫りの良さでありおもしろいところ・・・この仕事の妙味です。

-----手作業は彫る部分だけではないのですね。

一般の方には、彫るだけが手作業だと思われがちなのですが、実は、細かく分けると15工程くらいあります。順番に説明しながら手彫りと機械彫りの違いを説明しましょう。まずは印面調整を手作業で行います。

手彫りのはんこの表面は真っ平らではありません。印面調整といって、外側の部分を少し削って、ほんの少しだけ真ん中が高くなっています。昔は砥草(とくさ)を使って外側を削って調整していましたが、今はサンドペーパーのようなものを使って調整をしています。

砥草機械彫りの真っ平らなはんこは、押印したときに真ん中部分が写りにくいのですが、手彫りの場合は印面調整で真ん中が少し高くなっていますので、キレイなはんこが押しやすいです。このようなひと手間をかけられるのも手彫りの良さだと思います。

印面調整が終わったら、はんこの表面に赤い朱墨を塗って、その上に字数に応じた罫線や中心線を引いたり、文字が入るべきところを決定するため鉛筆で文字を下書きしたりします。

そして朱墨と黒い墨で、赤と黒のコントラストを利用しながら文字を書いていき、鏡に写して補正しながら書き上げます。

文字を書く作業が終わると、次は彫る作業です。

-----彫り方にも機械との違いがあったりするのですか?

機械彫りのはんこは、スピンドリルで回転しながら彫ります。まっすぐ垂直に一定の深さで彫るので、文字間や行間など凹凸の底の部分がつるつるでキレイですから、一般の人にも機械彫りだということが一目でわかります。

手彫りの場合は彫刻刀で角度をつけて彫りますので、底の部分は彫ったあとの浚い目(さらいめ)が美しく整っている様子が見えます。

-----仕上がり具合についてはどうですか?

手彫りのはんこ機械彫りは回転しながら彫るので、彫り口がどうしても丸くアールがかかったようになってしまい角の部分をキリッとシャープに彫ることができません。特に外枠と文字の接点部分は、鋭角に彫らないといけない場合が多いですので、機械彫りでは浅くしか彫ることができなかったり、文字を小さくして外枠と文字の間に隙間を作ったりという対策がとられています。

手彫りの場合は、鋭角な部分もきっちり彫ることができますから、文字を美しく伸びやかに線質を表現しても問題なくキレイに彫れます。

-----自分の名前や社名であったりするわけですから、妥協された文字ではなくて少しでもキレイな文字の方が嬉しいですよね。他に違いはありますか?

彫っていく手順が違うと思います。僕の場合は、線と線に囲まれた小さい穴の部分から彫っていきます。田んぼの田なら、真ん中の4つの四角形の部分です。

四角形の部分が終わると、次は枠を残して外周。その後、偏(へん)と旁(つくり)の間を彫り、字際をトレースするように彫ります。

-----彫る手順も仕上がりに関係があるのですか?

あります。周りを彫っていない状態で内側から外に外に彫っていくと、失敗が少なくキレイに仕上がります。彫刻は一度失敗をすると修正ができないですから。

最後に、何もない余白部分を削り取って粗彫りは終わりです。

-----粗彫りということはまだ終わりではないようですね。

仕上げ前の印面調整をします。

彫り始める前に朱墨と黒い墨を使って文字を描きましたが、その墨が、ほんのわずかですが層になって印面に残っていますので、砥草で削り取ります。
それからツヤ出しのヤスリをかけたり、材質によっては砥石でピカピカに磨き上げたりします。

キレイになったら、また印面に墨を打ちます。白い材質の場合は黒い墨、黒い材質の場合は赤い朱墨を打ちます。

-----墨の層を削り取ったばかりなのに、また墨を塗るのですか?

先ほど削り取った墨は、赤と黒のコントラストを利用して文字を書くためのものでしたが、今回の墨は、印材と墨のコントラストで彫った場所を見やすくするために打ちます。彫ったところと彫っていないところがはっきりわかった状態で、仕上げの作業をしていきます。

彫ったときに、キワのところがちょっとギザギザになっていたり、バリができていたりしますので、面取りをしてすっきり滑らかに整えます。

機械ではこういう作業ができませんので、文字がボテッとしていますし、バリが残ったままのはんこは、押印したときに袋文字のようになって写りにくいのです。機械彫りのはんこは、一番最初の印面調整もされていないですから、手彫りのはんこと比べますと、キレイに押印することがとても難しいです。

-----キレイに押印するのって、すごく難しいですよね。

彫ることももちろん難しいですけど、僕は彫ること以上に押すことの方がうんと難しいと思っています。こういう仕事をしている僕でさえ何枚も失敗しますから。まっすぐ彫ってもまっすぐ押せない。はんこを押すという作業は、本当に難しいことなのです。

辻村浜夫それに、一般の方には彫る作業が一番難しいように思われがちですが、実際は彫る前に行う作業の方が、彫るよりも大変で難しいです。印面調整でいいますと、砥石のかけ方を体で覚えて、一人前にできるようになるまでに何ヶ月もかかります。

あとは刃物を研ぐこと。これも正しく刃物を研げるようになるまでに何年もかかります。正しく研げていない彫刻刀では、繊細な彫刻はできません。

彫る前にしなければいけないこと、覚えないといけないことがたくさんありますので、修業時代はそれらを正しくできるようになるまでかなり苦労しました。

-----私も彫ることが一番難しいのだと思っていましたが、整った印面に切れ味の良い彫刻刀。機械彫りにはない”ひと手間”の部分が大事なのですね。次は、修業時代のお話を聞かせていただけますか?

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インタビュー題目

  1. 機械彫りでは表現できない細部へのこだわり
  2. 約4年間の修業時代
  3. 全国印章技術大競技会『労働大臣賞』受賞
  4. 感謝する心と挑戦する心
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